最高裁判所第二小法廷 昭和27年(あ)3619号 判決 1953年5月29日
主文
本件各上告を棄却する。
理由
弁護人赤松政雄、同河合与の各上告審としての事件受理申立、同和島岩吉の上告趣意、同河合与、同河上丈太郎、同美村貞夫の上告趣意、同白井正実、同赤松政雄の上告趣意第二点について。
第一審判決引用の各証拠並びに本件記録に徴すれば、本件偽造の目的物たる外国貿易支払票(俗にドル・セント・クーポンと称するもので、五ドル・一ドル・五〇セント・二五セント・一〇セント・五セント券を組合せ合計五〇ドルを一冊に綴ったもの)は連合国の指令に基づき外国銀行が発行した弗表示の証券で、一般の外国人が日本国内においてこれと引換えに表示金額相当の物資の購入等をなし得るものであり、その流通は人的及び場所的に制限せられているけれども、なお日本国内において事実上流通するものというを妨げないから、刑法一六二条にいわゆる「其ノ他ノ有価証券」に当るものと解するを相当とする。論旨引用の大正三年(れ)第五四五号、同年一一月一四日大審院判例は内国において発行せず且つ流通しない「軍用鈔票」の偽造に関するものであって本件に適切でない。また、有価証券偽造罪における有価証券たるには、法律上一定の形式を必要としないものにあっては、必ずしも発行名義人の記載を要するものではなく、一見世人をして真正に成立した有価証券と誤信せしむべき外観を有するものであれば足りる。従って、仮りに本件偽造にかかるクーポンの表紙に発行名義人の記載又は消印を欠き、これがため法律上有価証券としての要件を具備しない場合においても有価証券偽造罪の成立を妨げない。それ故、第一審判決をもって有価証券偽造罪の判示に欠くるところありとし延いてこれを是認した原判決の理由不備、経験則違背を主張し、或いは本件は偽造未遂罪を構成するに過ぎないものとして原判決の事実誤認を主張する論旨はいずれも理由なきものである。更に昭和二四年政令三八九号において外国貿易支払票の収受又は所持が一般に禁ぜられていることを根拠としてその偽造行為が刑法一六二条一項の有価証券偽造罪を構成しないものとする論旨並びに右禁止規定を根拠として直ちに外国貿易支払票が日本国内において事実上流通するものなることを否定する論旨はともに採用できない。
弁護人白井正実、同赤松政雄の上告趣意第一点について。
論旨は憲法違反を云為するけれども原審において主張せず且つその判断を経ていないものであって刑訴四〇五条の上告理由に当らない。しかも共同被告人の自白は互に補強証拠となりうるのみならず、第一審判決挙示の証拠書類、証拠物は右自白の真実性を保障するに足る補強証拠ということができるから違憲の論旨は前提を欠き採用できない。
同第三点、第四点について。
論旨は結局量刑不当の主張であって刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)